飯田淮
2024.4.13(sat)-5.5(sun)
飯田淮 『On Land』
会期:2024年4月13日(土)14日(日)、20日(土)21日(日)、27日(土)28日(日)、 5月3日(金)4日(土)5日(日)
時間:11:00〜18:00
日本の産業発展を支えてきたこの地には、鉄鋼業やセメント、
これらは極めて合理的かつ複雑な造形をしており、
飯田は、十数年にわたりこの地で産業景観を撮り続けてきた。
空間を活かしたシンプルなフレーミングによって切り取られた産業
本展示では、
Profile
大分県出身
大阪芸術大学写真学科卒
卒業後広告写真制作会社(東京)に勤務
2007年より拠点を北九州に移し、
Biography
Esquire Japan デジタルフォトアワード 部門賞
APAアワード協賛企業賞
Website : http://kaiiida.com
https://kgplus.kyotographie.jp/
INTERVIEW
テーマは「自分が住む土地」写真家 飯田淮 初個展「On Land」インタビュー
京都を舞台にした国際的な写真祭「KYOTOGRAPHIE 2024」。期間中は13のメインエキシビションに加え、KG+(キョウト グラフィ プラス)と題し、京都市内の120を超えるギャラリーやアートスペースで様々な展示が行われます。SOQSOではKG+のプログラムとして、2024年4/13(土)・4/14(日)・4/20(土)・4/21(日)・4/27(土)・4/28(日)・5/3(金)・5/4(土)・5/5(日)の9日間にわたり、写真家・飯田淮さんの初個展「On Land」を開催します。
飯田さんは1961年大分県生まれ。大阪芸術大学写真学科を卒業後、上京し広告写真制作会社でカメラマンとしてのキャリアをスタートしました。2007年より北九州に拠点を移し、フリーランスフォトグラファーとして活動しながら、同地の鉄鋼業やセメント・化学工場などをモチーフに写真を撮り続けています。2020年からinstagramをスタートし、作品をアップしたところ、海外の写真家を中心にフォロワーが増加、DMをやりとりしたり、北九州での撮影をアテンドするなど、積極的にSNSを活用しています。
空間を活かしたシンプルなフレーミングで産業景観を“ここではないどこか”のランドスケープとして再構築する「On Land」はノスタルジックで音楽のように国や文化を超える気がします。そのスタイルがどうして生まれたのか、お話を訊きました。 Interview & Text / Tetsutoku Morita
初めて所有したアートはレコードジャケット。
──今作「On Land」は北九州で撮影されていますが、どのような経緯で始められたんですか?
2005年に写真ブログを始めて、そのタイトルが「On Land」だったんです。当時、暮らしていた場所で見かけた身近な景色や、建物の造形的な部分を切り抜いて撮っていました。
──住む街を撮るというスタンスは今と同じですね。
動き回れるなら色んな都市を撮ったと思うんだけど、自分の場合は生活圏が良かったんでしょうね。あと、ブログ時代からの共通点として、スクウェア写真を出してしているところがあります。
──スクウェアというのは真四角の写真。
そう。スクウェアは縦横比率が1:1、対一般的な写真は3:2です。昔のカメラにはスクウェアというフォーマットがありました。でもデジタルになってなくなった。今、スクウェアを選ぶということは、撮った写真に何らかの加工をしなければならない。そこに作品性が生まれると考えています。
──トリミング(切り取り)しているんですか?
いえ。建築の撮影などで使われるシフトレンズを使って、同じ建物を数枚写しスクウェアになるよう繋ぎ合わせています。
──シフトレンズとは?
携帯でビルを撮ろうとしたらカメラを斜めに傾けますよね。そうすると遠近法で上へ行くほど、すぼまって写ります。これが建築写真ではNGで建物全体をまっすぐ撮らなければならない。その時に使うのがシフトレンズです。パース(傾き)を整え、上部が見切れたり、地面が占める割合が大きくなる場合、垂直方向にレンズを移動させ歪みを補正できます。私は普通に1枚撮ってから上に動かし空を撮り、その2枚を繋ぎ合わせスクウェアにまとめています。
──上下で写真を合わせている。
そうです。空間を持たせたいんです。建物を撮るっていうより周囲の空気感、建物を風景のように扱いたいというか。そのためにスペースを使っています。これは日本の特徴かどうかわからないけど、建物に横幅があまりなく普通に撮るときっちり詰まってしまうんですね。空間を持たせたいと考えた結果、縦にスペースを求めてこの方法になったというのはあるかもしれません。
──スクウェア写真に惹かれる理由は?
自分が初めて所有したアートはレコードだったんです。昔は「ジャケ買い」と言って、中身の音楽がわからなくても、ビジュアルに惹かれてレコードを買うことがありました。私自身、中高校生の時から洋楽が好きで、聴いている中でレコードジャケットに美しさを感じた。それが頭の中に残りスクウェアに惹かれる要素になっています。「On Land」も、ミュージシャンのブライアン・イーノのアルバム名から取っているんです。響きが良く、意味も「地上」ってものすごく単純ですよね。それが好きで。自分の中の全てがこの言葉に集約されてる感覚があります。
Brian Eno – Ambient 4: On Land
https://www.youtube.com/playlist?list=PLh0rUu4c29SVHYSCdVN_FS9TTRKFFxB38
実家近くのセメント工場が原風景。
──イーノは環境音楽の提唱者ですが、飯田さんの作風とすごく合ってるように感じます。北九州に拠点を移し2020年から再びInstagramで作品を発表されましたが、そのキッカケは?
コロナで家にいる時間が多くなり何か発信できないかと考えて、それでもう一度、写真に本腰を入れ始めたんです。元々、アメリカのブライアン・シュットマート(@Bryan Schutmaat)というフォトグラファーが好きでよくホームページを見ていて。ドキュメンタリーというのかな。人や風景をモチーフにして染み込むような写真を撮るんです。彼がInstagramをやってるのを知り、自分もやってみようかと。それで開いてみたら洪水みたいにすごい写真が流れてきて、正直これはやばい世界だなと思いました。
──SNSに圧倒された?
そうですね。初めは建築に興味があったから自分の周りにある著名な建物を出していこうと考えていました。でも、そのジャンルには既に世界中を飛びまわってる人がいて、当然、日本にも来ているんですね。同じことは出来ないし、それなら逆に絞り込んでやったほうが良いのかなと。それで、インスタで発表する写真はスクウェアに限定しました。
──産業景観をモチーフにしたのはどうして?
大分の実家近くに大きなセメント工場がぽつんとあったんです。その風景が自分の出発点なのか、なんとなく工場の見える景色に郷愁を感じるんです。北九州に来たのは別の理由だったんですが、住んでみたら工業都市で周りに鉄鋼業やセメント工場、化学プラントがたくさんある。それが生まれた場所のイメージとオーバーラップしているのかもしません。
──北九州はどんな町ですか?
石灰質でセメントの材料となる石灰鉱山があったり、鉄鋼業も盛んです。かつては一大産業都市で日本の成長期を支えた。最盛期に比べると減りましたが、今も町を歩くと写真のような光景が飛び込んできます。東京や大阪だと工場と生活ゾーンは分離されてますが、北九州は道路の向こうにセメント施設があったり、コンパクトな工場が身近に点在している。居住区と産業エリアの境が曖昧で、出入りができる場所に撮影ポイントがあります。
──ロケ地は近い?
家から車で30分圏内です。北九州はそれ位で回れるんですが、くまなく足を運んでいても常に新しい発見があります。近いから天気や時間帯にこだわることもできて結局、最初に良いと思った時が1番いいんだけど、雲の形だったり、撮り直しが効くものは粘るようにしています。
──冒頭でご自身を流浪者と喩えられましたが、飯田さんの写真はその街に住みながらストレンジャー(外部)の視点もあるように感じます。
自分の住んでる場所ということはものすごく意識していますが、看板や標識など日本語はできるだけ排除してどこだかわからないようにしています。それは多分、自分が音楽や映画、写真で海外のアーティストに影響された部分が出ているからだと思います。
──Instagramで交流されているのも海外の方が多い?
はい。海外の人は興味を持ったらすぐDMを送ってくるんで国民性なのかもしれません。私は英語ができないので苦労してますけど面白いですね。この間も海外の人から「日本で写真を撮るから北九州に行ってみたい」とメッセージが来て案内しました。向こうも日本語を喋れないんですが、撮ってる雰囲気やその人の写真を見て、こういう所に行きたいんだろうなというのが何となくわかるので。
──SNSを使いこなされていますね。
そうですか。想像以上に広がったしやってみてよかったです。世界の人とも繋がりが出来たので。
──最後に初個展「On Land」の見所を教えて下さい。
写真のような場所が身近にあるということを伝えられたら。特別じゃなく生活のエリアにある物が撮り方でスペシャルなものに見えたら嬉しいです。あと表には出さないといっても、私の中では住んでる場所という意識が強いので「自分の土地」というのがテーマです。