GALLERY&CAFE SOQSO

EXHIBITION

小泉巧 / 内藤紫帆 “nuance”

2022.5.3 - 5.15

小泉巧/内藤紫帆 「nuance」

紙に漆を塗る”紙胎”という技法を主に用いて、器や立体などを制作している小泉巧と、収集した古紙やガラクタを素材に、小さな立体を制作している内藤紫帆からなる二人展。

本展タイトルの「 nuance 」とは、言葉などの微妙な意味合いや、言外に表された話し手の意図のことです。また、絵画においては、色の明度・彩度・色相の微妙な変化の現われを、音楽では、音色などの微妙な差異を表す言葉として用いられることがあります。

鑑賞者それぞれの見立てで、nuanceという展示空間をご覧ください。

会期:2022年5月3日(火)〜5月15日(日) 
定休日:火曜日
時間:11:00〜18:00(土日祝 20:00まで)
※初日5/3は祝日のため、営業しております。

Profile
小泉巧

1994年京都生まれ。2018年富山大学大学院芸術文化学研究科芸術文化学専攻修了。
紙に漆を塗る”紙胎”という技法を主に用いて、日常に使う道具や立体作品を制作している。

(主な展示)
2021
小泉巧 個展 線に依る(アートギャラリー北野 京都)
素材で楽しむ手の仕事(工藝サロン 梓 神奈川)
高岡クラフトストア by 作家のひきだし展(塩谷ビル 富山)
未来につながるものづくり(ポーラミュージアム アネックス 東京)
小泉巧 個展 漆のもの、然々。(愉しむ暮らしKKKAKEKKO 滋賀)
2020
Coexist | 2020 -共存Ⅰ-(GALLERY ART POINT 東京)

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内藤紫帆
1993年京都生まれ。2016年京都精華大学テキスタイルコース卒業。京都を拠点に、古紙や古道具を使った、小さな立体制作や、染色技法であるろうけつ染めをベースに用いた作品などを制作している。

(主な個展)
2021
内藤紫帆展 SHIHO Naito solo Exhibition(JINEN GALLERY 東京)
SHIHO Naito solo Exhibition「ある」(京都精華大学kara-S 京都)
2020
内藤紫帆展 SHIHO Naito solo Exhibition(JINEN GALLERY 東京)
2019
内藤紫帆展 SHIHO Naito solo Exhibition(JINEN GALLERY 東京)
インターアート7セレクション 内藤紫帆 作品展「架空の思い出」(TK GALLERY 東京)

INTERVIEW

漆芸とアートが混ざり合う2人展「nuance」作家インタビュー。

2022年5月3日からSOQSOで2人展「nuance」を開催する小泉巧さんと内藤紫帆さん。小泉さんは漆工芸作家、内藤さんはオブジェ作家として活動中で、実はメイン素材が「紙」という共通点を持ちます。「nuance」では、小泉さんの漆工芸と、内藤さんのアート作品が混ざりあって展示されますが、手に取って眺めていると、お皿がオブジェに見えたり、置物が道具に思えたり、クラフトとアートの境界線があやふやになる不思議な感覚を味わいます。その雰囲気に「nuance」を感じつつ、お二人にお話を訊きました。
Interview & Text / Tetsutoku Morita

漆と紙を組み合わせた“紙胎”という技法をアップデートする現代工芸作家、小泉巧さん

ーー小泉さんは京都ご出身なんですね。

小泉:僕は実家がこの辺で、隣の校区の中学校に通っていて、バスケの試合で来た記憶があります。「SOQSO」が出来て、新しい風が吹き始めたという感じがします。

ーー今日は作品を拝見しながらお話をお伺いできたらと思います。小泉さんは漆工芸家で、紙胎(したい)という技法をメインに制作をされています。

小泉:はい。こんな感じで、紙の素地に漆を塗って染み込ませるという方法を用い、主にお皿や酒器など用途のあるものを作っています。

ーー全く紙に見えないですが、特殊な紙なんですか?

小泉:いえ。和紙など色々な素材を使いますが、僕はケント紙が多いです。硬くて、パキッとした折り目が出るので。

ーーこのお猪口もケント紙で?

小泉:そうですね。紙を折って器の形を作り、漆を染み込ませ固めるって感じです。ケント紙だと鋭角な雰囲気になるんです。

ーー形状はもちろん色合いも木の器のような趣があります。

小泉:これは、白い漆を塗った上から、飴色ぽい漆を重ねることで、稜線が白く出るようにしています。

ーー漆器って黒っぽいイメージでしたが、小泉さんの作品はカラフルですね。

小泉:赤は漆屋さんで調合してもらってるものを使っていますが、それ以外は自分で作っています。絵の具と一緒で顔料を混ぜ、割合とか、季節によって乾く速さも違うのでちょうど良い具合になるように調整したりしています。

ーーと聞くと、光沢があって蒔絵が描かれている重箱みたいなものを思い浮かべる人も多いと思うんですが、小泉さんの作品は全体的にマットな印象です。

小泉:漆の制作に下地という工程があって。普通はツルツルに研いできれいにするところを、わざとザラザラとした風合いを残しています。

ーーなるほど。こちらの器も水滴のようなテクスチャーが印象的です。

小泉:これは一回漆を塗った後に、顔料に、炭や錫、真鍮など何種類か混ぜ込んで作った黒の粉末を蒔いて描いています。漆を接着剤的に使って模様を定着させ、その上からもう一回粉を撒くと、複雑に色が現れるんです。

ーー繰り返し漆を重ねて表現されているんですね。完成までどれくらい時間がかかるんですか。

小泉:漆は一回塗ると大体8時間位は乾かさないといけないので、幾つか同時並行で制作していますが、一からだと2週間くらいあれば仕上がりに持っていけるかなって感じです。

ーー手に持つと軽くてびっくりしますよね。洗ったりもできるんですか。

小泉:もちろん。洗剤でゴシゴシ洗えて、普通にお皿として使えます。

漆を塗って、金属だったり、陶器だったり、別の素材に見える。そういうところに面白さを見出しています。

ーー漆芸って、木とか竹とか色々な素材がありますが、小泉さんが紙を選んだのはどんなきっかけがあったんですか。

小泉:美術工芸専門の高校に通っていて、そこで漆と出会いました。それから、漆が学べるという理由で富山の大学に行って、授業で「紙を1回だけ折って美しい立体を作りなさい」という課題が出たんですね。漆とは全然関係なかったんですが、それが楽しくて。

ーーシンプルだけど深い授業ですね。

小泉:はい。A4の紙を渡され一回だけ折って綺麗に立つ立体を作りなさいって内容だったんですが、その時、紙が面白い素材だと気づいたんです。それから、漆の専門的な授業を受けていく中で、先生と相談しながら、どういうものに興味があるか?という話になって。紙が面白いと思っているなら漆でやっちゃえばみたいなことで、組み合わせてみたというのが始まりです。

ーー紙に漆を塗る技法自体は昔からあるんですよね?

小泉:そうですね。紙に漆を塗ること自体はずっと昔から行われていて。例えば、神主さんが、被る烏帽子、あれは和紙に漆を塗って帽子を作っているんです。あと、韓国にも紙を紐状によったもの編んで、それに漆を塗ってカバンを作る伝統工芸があります。

ーー元々は大陸から伝わってきた技術。

小泉:はい。日本には和紙の文化があったので、そこで漆と結びつくんです。でも、意外と発展してなくて。漆工芸の中で補強材的な意味で和紙を使うことはよくあるんです。お椀の口の部分を強くするとか、そういう風には使われてたんですけれど、全面的に和紙でやるのは少なかった。現代は紙の種類も多いし、色々できるんじゃないかなと思ってます。

ーー漆のイメージを覆す。

小泉:江戸時代にさかのぼると色々な技法があったんです。武士が自分のアイデンディティを示すため職人に命じて、刀の鞘を漆で装飾させた。その時、漆の新しい表現も沢山生まれたんですが、戦後、民藝ブームが起きた時、現代では漆のイメージがツルッとしたピカピカのモノに固まったんですね。もちろんそれも良いんですが、僕は金属だったり、陶器だったり、漆を塗ったのに別の素材に見えるみたいな。そういうところに面白さを見出せたらなと。

ーー小泉さんは日本酒好きで、今回、富山のお酒とおつまみを小泉さんの漆器で味わえる「飲み比べ」も企画されているとか。

小泉:はい。富山は米どころで、水源にも恵まれていて、学生時代、美味しいお酒を飲ませてもらったんです。酒造の社長さんと一緒に飲んだりする機会もあって、その時に、器がお酒や料理に与える影響を強く意識するようになって。僕がお皿を多く作るようになったのも、その時に生まれた食文化への興味や、料理人さんの料理を作るときの気持ちを感じれたことが大きいと思います。

ーー漆の魅力を知るのは実際使うのが一番。

小泉:普段、漆器を触ったことがない方に「扱いやすいですよ」って感じでご案内しているんですが、買って頂いた方からは「思っていたより全然気楽に使えて、漆器に対するアプローチが変わった」とお声を頂きます。あと、漆器って置くだけでも、その場所の空気感とかがちょっと引き締まるので、飾るのも楽しみ方かなと思います。

古い紙やブロカントを材料に“物”自体が持つ面白さを表現する作家、内藤紫帆さん

ーー内藤さんも京都がご出身で。

内藤:京都の精華大学テキスタイルコースを卒業して、今は立体物や「ろうけつ染め」をベースにした制作をしています。

ーー先ほど、小泉さんは「工芸には見る楽しみもある」とおっしゃっていましたが、内藤さんのオブジェは「飾って眺める」のが目的。

内藤:小泉君は用途があるものですが、私は特に使い方はないというか。

ーーふと、何かを考えるきっかけになったりするのがアートの役割だと思います。内藤さんの作品はどこか懐かしく「これはなんだろう?」という好奇心から、独特の質感に導かれ、忘れていた記憶が思い出されるような感覚を味わいました。肌触りやテクスチャーの時代感が印象的ですが、どんな素材を使われているんですか?

内藤:箱型のものは全て紙でできています。L字のタイプは中身が角材、丸いのは石で、周りを紙で包んでいます。

ーー蝋紙のような質感も印象的です。

内藤:ヌメっとしているのはワックスですね。

ーー古い紙を使われている?

内藤:基本はそうです。気に入れば現代の包装紙も使っています。

ーーオブジェの制作はどのような経緯で始められたんですか。

内藤:大学で染色を学んで、今も立体物と並行して布を染める絵画的な作品も制作しているんですが

ーー平面作品でも日用品や衣類をモチーフにされていて、内藤さんが表現する世界をより味わえますね。

内藤:今回、平面作品も展示するんですが、学生時代、染色に関して迷った時期があって。行き詰まったので、軽い気持ちで手を動かしてみようと思い、元々、紙を集めるのは好きだったから、それを使ってコラージュっぽい作業をしてみたんです。感覚的に好きなものだけを組み合わせ、紙をペタペタ画面に貼っていく。そうしたら面白くて。

ーー悩んでいた染色は一旦忘れて。

内藤:そうですね。それでコラージュの展示を壁面に展示してみた時、壁に馴染みすぎていたので、ちょっと浮かせたり、場所との兼ね合いを考えて分厚くした方がいいんじゃないかとか、そうやって作っているうちに、だんだん立体物になっていきました。

立体物は、面白いと思った鮮度をすぐ形にできる楽しさがあります。

ーー「nuance」ではオブジェの展示がメインになりますが、制作する中で平面作品との違いはありますか。

内藤:立体物は、面白いと思った鮮度をすぐ形にできる楽しさがあります。染色は工程が多く、下絵をしっかり描いてトレースして違う紙に線画だけ起こしてまたそれを布にトレースしてと何段階もあって、最初にいいなと思った感覚がなくなってしまうんですね。それも今は良いと思えるんですけれど当時は、こんなことしたかったけ?と考えてしまって。

ーー楽しいことをやってみたら新しい扉が開けた。オブジェを拝見すると表現もどんどん変化してきていますね。

内藤:箱が初めに作ったもので、瓶は最近のものです。

ーーモチーフが具体的になってきています。制作はどのように?

内藤:色々なんですが、紙箱に関してはケント紙です。瓶は自分が収集しているガラス瓶に紙を貼って型取りし張り子の要領で作っています。青っぽい色が付いてる部分はアクリル絵具で彩色してから貼っていますね。あと、骨董屋で働いてるんですが、紙はそこで手に入れたものを使っています。

ーー骨董って緩衝材に昔の紙が利用されていますもんね。

内藤:器が中心のお店なんですが、オーナーが仕入れをした時、古いお家の蔵とかから出てきたものって、昔の人が読まれていた新聞やチラシ、原稿用紙など、色々な紙で包まれているんです。それを捨てるんじゃなく作品にしたいなと。

ーーノスタルジーが良いんですか。

内藤:うーん。ノスタルジーというわけではなく紙の質感として面白い感じですね。時間経過みたいなものが良いと思っています。色とかシミとか古い紙ならではの。

ーー確かに、作品にも新聞の記事など時代がわかるものは使われてないです。

内藤:そうですね。最初は文字情報を入れたくなくて。不思議な物体を作ることに興味があったんです。静謐で謎な雰囲気。具体的なことを言わず世界観を表現していたんですが、前回の個展で「もし自分が骨董屋をやったら何を仕入れて、どう配置するか」というコンセプトで展示してみて。それで、お店だったら、もう少し幅広く商品を取り扱うだろうなと考えて、瓶などの具体的なものを作りました。最近はギャグぽいものも入れようかなと思ってあえて文字を使ったりもしています。

ーー展覧会に来られた方の声で、印象に残ったものはありますか。

内藤:「使えないものだけど、呼吸をしていくために大事なもの」みたいなことを仰ってた方がいて、扱えないという私と共通の認識はあるんですが、でも何か意味はあると思って買ってくださるお客がいたり。あと、前回の個展では「作品と対話ができる、そういう余白がある」って感想を下さった方がいて。展覧会のコンセプトって言葉にするのが難しいんですが、見て頂いた方の文章を読むと「確かに自分はこういう事が言いたかったんだ」となります。感じ取ってくれてる人がいるのは嬉しいですね。

ーー骨董屋さんで働かれていることが作品に繋がったり、内藤さんは生活と制作が地続きなのかなとお見受けしました。その流れでお伺いしたいんですが、最近、自転車で日本縦断されたそうですね。

内藤:はい。昨年の夏、約一ヶ月かけ北海道の稚内から本土先南端の鹿児島佐田岬まで行きました。

ーーすごいですね。

内藤:サイクリングが好きで、テントを積んで12泊くらいすることは今までもやっていて。そういう人たちの夢で日本縦断っていうのがあるんです。YouTubeとかブログにルートが紹介されてて、どうせ自転車に乗ってるならいつか自分もやってみたいと。冒険にすごい憧れがあって。

ーー泊まるところはどうしたんですか。

ゲストハウスを取りつつ、半分以上は野宿ですね、テントを張って。面白かったです。

ーー自転車の旅が作品に与えた影響はあります?

内藤:制作のために走りに行ったわけではなかったんですけれど、途中でいろんな面白い漂流物があって、今回も日本海で拾った石を作品にしたり、素材に使ったりはあります。

ーー作品にストーリーが付加された。

そうですね、前回の個展でも、ちょっと置いてたんですが「北海道の内浦湾で拾った浮きです」って産地みたいな感じで話していたら、引き込まれて買ってくださる方も人もいたりして、背景があるとよりおもしろいって言われました。

2人展「nuance」の見所。

ーー最後にお二人から「nuance」へお越しの方にメッセージをお願いします。

小泉:「nuance」には「色や音、感情などの微妙な差異や陰影」という意味があって、言葉の外にある微妙な感覚を表します。それが、お互いの制作スタンスにピッタリだったので展示の題名にしました。部屋の中央に大きな台を置いて、二人の作品を混ぜて並べるんですが、距離感や配置も考えているので、モノが置いてある佇まいだったり、空気感、色合いとか、言葉で伝えるのが難しいニュアンスを感じ取ってもらえれたら幸いです。

内藤:以前は個々の作品に集中していて、一つ一つのオブジェが見えやすいように置くという基本的な配置でやっていたんですが、最近は空間全体を作ることに興味が湧いてきて。今回「nuance」も、部屋の壁やコーナーも効果的に使ったり、ギャラリー全体が一つの作品になるような感覚でやっています。来られる方にこう見てほしいっていうのはないんですが、部屋全体で何かが伝わればと思います。

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